リニア中央新幹線で国交省が静岡県に回答 大井川の流量減少問題



リニア中央新幹線に組み込まれる山梨リニア実験線。【撮影:草町義和】

国土交通省の鉄道局は1月17日、静岡県から要請されていたリニア中央新幹線の静岡工区の進め方について、同県への回答書の内容を公表した。

中央新幹線は東京都と大阪市を結ぶ新幹線鉄道の建設線。2011年10月、国土交通大臣が品川(東京都港区)~名古屋間の工事実施計画を認可し、同年12月から各地で工事が始まった。静岡県内の区間は大井川水系への影響を懸念する静岡県と中央新幹線の営業・建設主体であるJR東海の協議が難航しており、工事が始まっていない。

静岡県は昨年2019年12月、静岡県とJR東海の2者による協議の場に、国交省のほか環境省や農林水産省など水資源や自然環境に関連する全ての省庁が参画することを要請。同時に2者の協議の内容を評価し、文書の形で提示するよう求めていた。

回答書によると、2者の協議では「トンネル湧水の全量の大井川表流水への戻し方」と「トンネルによる大井川中下流域の地下水への影響」が2点が重点的に議論されてきたとし、この2点について「JR東海側の説明に対して、専門部会の委員や県職員の方々等の納得が得られていないのではないかと考えている」としている。

環境省や農水省などを協議の場に参加させることについては「制度上の接点がなく、法令の手続き上も位置付けられていない関係省庁を当事者として新たな三者協議の場に参加させるとの提案の趣旨を必ずしも十分に理解できない」としつつ、「必要に応じて、関係省庁の知見を活用することも検討したい」とした。

また、中央新幹線は「JR東海の事業」としつつ「国土交通省は、当該事業の所管官庁として、リニア中央新幹線の早期実現とその建設工事に伴う水資源や南アルプス地域における自然環境への影響の回避・軽減を同時に進めていくことが重要であると認識」しているとし、「国土交通省としても、JR東海を指導、監督していきたい」としている。

■大井川の「全量戻し」で難航

静岡県内に中央新幹線の駅は設けられないが、山梨県駅(仮称、甲府市)と長野県駅(仮称、飯田市)のあいだに南アルプスを貫く全長約25kmのトンネルを建設し、静岡北部を通過する。静岡県はトンネルの掘削工事で発生する湧水が山梨側と長野側に流れ、静岡県内を縦断する大井川の流量が減少することを懸念。静岡工区の工事で毎秒2t減るとされており、静岡県とJR東海の協議が難航している。

JR東海は静岡県の要望に応じ、2014年4月に提出した環境影響評価書で、大井川の流量減少対策を盛り込んでいた。一方、静岡県は2017年4月、工事で生じた湧水をすべて大井川に戻すことを求める意見をJR東海に提出した。

2018年10月にはJR東海が「全量戻し」を表明し、落着したかに見えた。しかし、協議が進むなかで、完成までの一定の期間は「全量戻し」が困難なことが判明し、協議は再び膠着(こうちゃく)状態に陥っている。

JR東海の金子慎社長は昨年2019年5月、静岡工区の未着工が続けば品川~名古屋間の開業予定時期(2027年)に影響が出る可能性に言及。8月には静岡県とJR東海の協議の場に国交省の担当者が初めて参加するなど、現状の打開に向けた動きも活発化している。

リニア中央新幹線の工事で流量の減少が懸念されている大井川。上の橋りょうは大井川鐵道の大井川本線。【撮影:草町義和】