本州と四国を結ぶ「本四架橋」3ルートのうち、実際に鉄道と道路の併用橋として使われているのは、岡山県と香川県を結ぶ児島・坂出ルート(瀬戸大橋)のみ。上層に道路を設け、下層に鉄道用のスペースが設けられている。現在は宇野線の茶屋町駅と予讃線の宇多津駅を結ぶJR在来線の本四備讃線(瀬戸大橋線)が瀬戸大橋を通っている。
しかし、瀬戸大橋の鉄道用スペースは在来線だけではない。新幹線用のスペースも確保されている。
■「重さの偏り」防ぐ在来線の配置
瀬戸大橋は橋の中心の東側に在来線の複線、西側に新幹線の複線を設けるためのスペースが確保されており、合計4線分の線路を敷くことができる。ただし、瀬戸大橋を構成する橋りょうは設計上、同時に2本の列車しか載せられない「2線載荷」。3本以上の列車が一つの橋りょう内に同時に存在しないよう、信号で制御することが想定されている。
1973年、岡山市と高知市を結ぶ四国横断新幹線の基本計画が決定。詳細なルートは決まっていないものの、瀬戸大橋の新幹線用スペースを通って本州から四国に乗り入れることが事実上確定している。ちなみに、四国新幹線は大阪市から四国の徳島市付近、高松市付近、松山市付近を経由して九州の大分市に至る計画で、瀬戸大橋は通らない。
瀬戸大橋は1988年4月10日に供用を開始。同時に在来線の瀬戸大橋線も開業したが、上り線(茶屋町方面)は橋の西側(本来は新幹線の下り線を設置するスペース)に設置され、下り線(宇多津方面)は橋の東側(本来は在来線の上りを設置するスペース)に設置された。在来線が半分だけ新幹線のスペースを走っていることになる。
これは四国横断新幹線の建設のめどが立たず、当面は在来線のみ建設することになったため。新幹線と在来線の線路を両方設置する当初計画のまま橋の東側に在来線だけ整備すると、橋にかかる重さが偏り、橋の劣化が片側のみ加速してしまう。そこで在来線の上り線は新幹線のスペースに設置することで、重さが偏らないようにしたのだ。
■トンネル内で合流する暫定在来線
瀬戸大橋の本州側に設けられている鷲羽山トンネルも、新幹線の建設に対応した構造だ。同トンネルの瀬戸大橋寄り坑口は、計4本が上下左右に並ぶ「四つ目トンネル」で、上のトンネル2本は道路用。下のトンネル2本が鉄道用で、ここも東側が在来線の複線、西側が新幹線の複線になっている。
岡山行き上り列車の先頭車から鷲羽山トンネルの坑口を見ると、新幹線トンネルが在来線より大きくなっている。新幹線と在来線のそれぞれの車体の大きさにあわせ、トンネル断面を変えているのだ。
この2本のトンネルの岡山寄りは途中で合流して新幹線規格複線の神道山トンネルに接続。在来線の暫定上り線と暫定下り線が、それぞれ新幹線用の路盤に移る。一方、在来線トンネルの岡山寄りは未着工で、坑口も存在しない。神道山トンネルを抜けた岡山行き上り在来線列車はしばらく新幹線の路盤を走るが、途中で在来線の路盤に移る。
ちなみに、本四備讃線は大半がスラブ軌道だが、在来線の線路が新幹線の路盤から在来線の路盤に移る部分のみ、砕石を敷いたバラスト軌道になっている。これは将来の新幹線建設の際、切替工事を行いやすくするためだ。
■「一部整備」でも膨大な費用
整備新幹線の建設が進んだためか、近年は「次はこちら」と言わんばかりに、四国新幹線と四国横断新幹線の建設を求める運動が活発になっている。しかし建設には膨大な費用がかかるため、着工のめどは立っていない。
そこで四国の関係団体は、部分的な整備を軸とした建設推進運動を行っている。具体的には、四国横断新幹線の全線(岡山~高知)と、四国新幹線の四国内(徳島~高松~松山)のみ建設するというもの。これなら、海を渡る橋りょうやトンネルを新たに建設する必要がなく、建設費はかなり抑えられる。
四国の鉄道高速化検討準備会が2014年にまとめた基礎調査によると、四国新幹線と四国横断新幹線の全線を建設した場合、概算建設費は4兆7000億円。これに対し、四国横断新幹線の岡山~高知間と四国新幹線の徳島~高松~松山間のみ建設した場合は、全線整備より3兆円以上安い1兆5300億円になる。
それでも1兆円を超える膨大な費用で、そう簡単に建設できないことは明らか。四国各県の知事などで構成される四国新幹線整備促進期成会はここ数年、四国新幹線・四国横断新幹線を基本計画から整備計画(いわゆる整備新幹線)に格上げするための法定調査を行うよう国に要望しているが、いまのところは調査開始のめども立っていない。仮に実現に向けて動き出すことがあるとしても、相当な年月を重ねる必要がありそうだ。
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