『鬼滅の刃』無限列車にそっくり「ハチロク」こと8620形、どんな蒸気機関車?

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アニメ映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が空前の大ヒットを飛ばすなか、作中に出てくる蒸気機関車が「ハチロク」こと8620形に似ているとして話題になっている。

青梅鉄道公園で保存、展示されている8620形の1号機(8620号機)。【画像:のりえもん/PIXTA】

『鬼滅の刃』は2016年から今年2020年にかけ『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画。昨年2019年には原作の単行本第1巻から第7巻冒頭の内容に沿ったテレビアニメが放映され、最終回では主人公たちが「無限列車」と呼ばれる架空の列車に乗るシーンで終了した。映画はその続きを描いている。

原作単行本の第7巻とテレビアニメ最終回で描かれている「無限列車」を確認してみたところ、客車をけん引する蒸気機関車のいでたちは、まさに「ハチロク」そのもの。先頭のナンバープレートこそ「無限」という漢字2文字に置き換わっているが、ボイラーや煙突の形状、ドーム形の砂箱と蒸気溜めが二つ並んでいる部分など、8620形との共通点が多い。

■コーナーを攻めやすい「ハチロク」

旅客列車をけん引する8620形。【画像:のりえもん/PIXTA】

8620形は大正初期の1914年から製造が始まった、国鉄の旅客列車用蒸気機関車。『鬼滅の刃』も大正時代を舞台にしており、時期が合致する。

この当時、蒸気機関車の多くは元号が変わる前の明治時代に欧米から輸入されたものだったが、蒸気機関車の国産技術も向上していた。また、急行列車には大型の輸入機が使われていたが、当時の輸送量からやや小型の機関車の導入が求めれるようになり、国産の蒸気機関車として8620形が開発された。

8620形の車輪は、先頭から先輪1軸と動輪3軸で構成されている。先輪とは蒸気機関車の先頭、動輪よりも前に設けられた車輪のこと。この先輪と、先輪の次にある動輪(第1動輪)に、8620形の特徴がある。

動輪は通常、車体(台枠)に固定されているため、カーブを走るときは脱線しやすくなる。そこで、カーブにあわせて方向が変わる車輪を先頭に設けることで機関車の車体を誘導し、カーブを通過しやすくしている。

当時の旅客列車用の蒸気機関車の先輪は、車軸が二つある台車(2軸ボギー台車)を先輪として採用することが多かった。1軸より2軸のほうがカーブを走りやすいためだ。これに対して8620形は先輪を1軸としつつ、先輪と第1動輪をつないで2軸ボギー台車のような構造にした。

これにより、カーブ通過時は第1動輪が少し横にずれるようになり、先輪を減らして小型化しつつ、カーブを通過しやすくなった。つまり、ハチロクはコーナーを攻めやすい蒸気機関車というわけだ。

■3番目に多い製造数

8620形は大正初期の1914年から昭和初期の1929年にかけ、国鉄向けに672両が製造された。国鉄の蒸気機関車としては3番目に製造数が多く、同時期に製造された貨物列車用の9600形とともに、日本の蒸気機関車の国産体制を確立した機関車といえる。

昭和に入るとD51形などの「新型」蒸気機関車が量産され、8620形はローカル線の普通列車や入替作業などで使われることが多くなったが、汎用性が高く使い勝手も良かったためか、国鉄線では1975年3月まで使われ続けた。

大量生産されたこともあって、いまも静態保存された8620形を全国各地で見ることができる。青梅鉄道公園(東京都)では、1号機の8620号機が展示されている。動態保存機もあり、京都鉄道博物館の8630号機は構内を走るSL列車「SLスチーム号」をけん引。JR九州の58654号機は営業運転のSL列車で使われている。

58654号機は、熊本県人吉市で静態保存されていたものを動態復元し、1988年から運用されている。近年は熊本~人吉間を結ぶSL列車「SL人吉」をけん引していた。

肥薩線のSL列車「SL人吉」をけん引する8620形の58654号機。【画像:tetsuo1338/PIXTA】

今年2020年7月の豪雨で運行区間の肥薩線が壊滅的な被害を受け、「SL人吉」は運休中。その代わり、JR九州は『鬼滅の刃』とのコラボ企画の一環として、58654号機がけん引する臨時SL列車「SL鬼滅の刃」を鹿児島本線の熊本→博多間で運行している(今後の運行日は11月21・23日)。

ナンバープレートは作中と同様「無限」に取り換えられており、「無限列車」の姿が再現されている。

■そっくりだが似ていない理由

ただ、「SL鬼滅の刃」の58654号機は一見すると、「無限列車」とは似ていない。58654号機には除煙板(デフレクター)が設置されているためだ。

宮崎県高千穂町で静態保存されている8620形の48647号機。デフレクターを装備しているため印象が大きく異なる。【撮影:草町義和】

デフレクターは煙突の両脇に設置された板のこと。この板で空気の流れを変え、走行中でも煙が上のほうに流れるようにして、運転室に煙がかからないようにしている。

本来の8620形はデフレクターを装備しておらず、作中の「無限列車」もデフレクターはない。しかし8620形は後年、デフレクターが追加装備されており、JR九州の58654号機もデフレクターが取り付けられている。先頭部の両脇がデフレクターに覆われる格好となっているため、一見すると似ていないように見えるのだ。

どうせならデフレクターをいったん撤去して「SL鬼滅の刃」を運転すればよかったのにと思うが、そう簡単に取り外しできない装備だし、これはやむを得ないだろう。

青梅鉄道公園の8620号機や京都鉄道博物館の8630号機はデフレクターがなく、「無限列車」と同様の姿を見ることができる。

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