JR九州で345件の被害確認 鹿児島本線は早期復旧へ、久大本線と肥薩線は見通し立たず



JR九州は7月13日、7月豪雨による鉄道路線の運転状況や被災状況を発表した。7月3日から10日までの8日間、計20路線で4550本の列車が運休し、約19万人の客に影響が出た。一部の路線では大きな被害が発生している。

土砂が流入した鹿児島本線の上伊集院~広木間。【画像:JR九州】

同社は7月12日時点で合計345件の施設被害を把握。このうち145件は久大本線で発生しており、肥薩線で65件、鹿児島本線で26件の被害を確認している。それ以外の線区でも109件の被害が確認された。

久大本線では7月7日の始発列車から、大雨により久留米~大分間で運転を見合わせた。大分県内で大きな被害が発生しており、豊後中村~野矢間の第二野上川橋りょうが流出したほか、引治~豊後中村間の第一野上川橋りょうの橋脚2本が傾斜。天ケ瀬~杉河内間の第八玖珠川橋りょう付近の盛土流出や、野矢~由布院間の水分トンネル内への土砂流入なども発生している。

久大本線では第二野上川橋りょうが流失したほか、写真の第一野上川橋りょうも橋脚が傾いた。【画像:JR九州】

現在の運休区間は日田~向之原間で、復旧のめどは立っていない。このうち由布院~向之原間は7月14日から代行バスの運転が始まった。

肥薩線は7月4日から運休。熊本県内で大きな被害が発生しており、鎌瀬~瀬戸石間の球磨川第一橋りょうと那良口~渡間の球磨川第二橋りょうが流失した。ほかにも、段~坂本間や葉木~鎌瀬の路盤流出、坂本駅構内の道床流出、人吉~大畑間の盛土流出などの被害が出ている。現在の運休区間は八代~吉松間で、このうち八代~真幸間の復旧の見通しは立っていない。

道床が流出した肥薩線の坂元駅構内。【画像:JR九州】

鹿児島本線は、熊本県内の玉名~肥後伊倉間と、鹿児島県内の木場茶屋~串木野間、上伊集院~広木間で、大規模な土砂流入が発生した。3区間とも早期の運転再開を目指して復旧工事を進めているという。

■相次ぐ九州の鉄道被害

JR九州の鉄道路線では、豪雨や地震などの影響で長期間不通になるケースが相次いで発生している。豊肥本線は1990年や2012年の豪雨で1年以上も一部不通になったほか、2016年に発生した熊本地震でも甚大な被害が発生し、今年2020年8月8日に4年ぶりに全線復旧の予定だ。

復旧工事が完了し、まもなく運転を再開する予定の豊肥本線。【画像:JR九州】

2017年の九州北部豪雨では、久大本線と日田彦山線が一部不通に。久大本線は1年後の2018年に全線復旧したが、今年2020年7月の豪雨で再び線路が寸断された。

日田彦山線の運休区間(添田~夜明)は利用者が少なく、1日1km平均通過人員(旅客輸送密度)は災害発生前の2016年度で299人(運休していない区間を含む田川後藤寺~添田~夜明)だったこともあり、存廃問題が浮上。JR九州は鉄道を廃止してバス高速輸送システム(BRT)を導入する方針だ。

■肥薩線は特定地方交通線の「除外路線」

今年2020年7月の豪雨の影響で長期間不通になるとみられる久大本線と肥薩線のうち、肥薩線も沿線の過疎化などで利用者が非常に少ない。輸送密度は国鉄時代の1977~1979年度が2558人だった。

球磨川の氾濫で流出した肥薩線の球磨川第一橋りょう。【画像:国土地理院】

1980年に制定された日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(国鉄再建法)の施行令では、原則として輸送密度が4000人未満の国鉄線を「特定地方交通線」に指定するものとしていた。この指定を受けた路線はバスに転換するか、あるいは第三セクターなど国鉄以外の事業者に経営を引き継がせることになり、肥薩線も廃止される可能性が高まった。

ただ、施行令ではラッシュ時の利用者が多い路線や、鉄道の代わりになる道路が未整備の路線については、特定地方交通線の対象から除外するとしていた。肥薩線も代替道路が未整備という理由により特定地方交通線には指定されず、そのまま1987年の国鉄分割民営化でJR九州が引き継いだ。

しかし、肥薩線はJR発足後も沿線の過疎化などによる利用者の減少が続いている。輸送密度はJR発足時の1987年度が1400人だったのに対し、2018年度は417人まで縮小。区間別で見ると、八代~人吉間が455人、人吉~吉松間が105人、吉松~隼人間が656人で、熊本・宮崎・鹿児島の3県境を貫く人吉~吉松間は100人割れが目前に迫っている。

JR九州は風光明媚(めいび)で歴史的な鉄道施設も多い同線の特徴を生かし、肥薩線を走る観光列車の充実に力を入れてきた。SL列車「SL人吉号」も運転されている。その点では、めぼしい観光地が沿線にない日田彦山線の添田~夜明間とは事情が異なる。

それでも経営的には肥薩線も赤字であることに変わりない。2018年度は八代~人吉間が5億7300万円、人吉~吉松間が2億6100万円、吉松~隼人間が3億5900万円の損失を出した。

新型コロナウイルスによる利用者減少の打撃も受けているJR九州が今後、被災した各線の復旧をどのように進めていくか、注目される。

肥薩線のSL列車「SL人吉号」。【画像:ohsaka/写真AC】