旅客列車の農産物輸送が拡大 新幹線から在来線特急、私鉄でも



旅客列車を活用して農産物を運ぶ「貨客混載」が徐々に拡大している。従来は新幹線を中心に行われてきたが、最近は在来線特急にも拡大。私鉄でも特急列車を使った農産物輸送の動きが出始めている。

西武鉄道の特急「ラビュー」による農産物輸送の流れ。【画像:西武鉄道】

JR東日本は2018年以降、東北新幹線や上越新幹線などで農産物輸送の実証実験を行っている。今年2020年9月以降は在来線特急「踊り子」「ときわ」でも農産物輸送を開始。鮮魚や農産物を東京駅などに運び、駅構内の店舗で販売している。

いまのところイベントの開催などにあわせた小規模な輸送にとどまっているが、JR東日本は今後、「イベントなどにとどまらない定期的な食材などの輸送拡大に取り組む」としている。

JR西日本は10月4日、大阪駅で出雲のシイタケなど山陰エリアの特産品を販売するイベントを実施。一部の商品は、前日に山陰エリアを出発して当日朝に大阪駅に到着した夜行の旅客列車「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」で運んだ。

東武鉄道は10月17・18日の2日間、特急列車による栃木の特産品の輸送実験を実施した。朝の6時41分に鬼怒川温泉駅を発車する特急スペーシア「きぬ110号」を使用し、鬼怒川温泉駅で温泉湯、途中の新鹿沼駅でナシやキノコなど秋の食材を積み込み、とうきょうスカイツリー駅(8時46分着)に輸送。10時30分から同駅に隣接する商業施設「東京スカイツリータウン」のイベント会場に運び込まれ、地域特産品のPRに使われた。

西武鉄道も10月21日から27日まで平日のみの5日間、特急列車で農産物輸送の実証実験を行う計画だ。埼玉県の秩父エリアにあるレジャー農園で朝に収穫したシャインマスカットを西武秩父線・横瀬駅で特急「ちちぶ」(9時28分発)に積み込む。東京都心の池袋駅には10時43分に到着。11時頃から西武池袋本店の食品売り場で、朝に採れたばかりのシャインマスカットを販売する。

旅客列車を活用した貨客混載は法制度の改正に伴い近年増えているが、そのほとんどは北越急行ほくほく線(新潟県)などローカル線の旅客列車で、運ぶものも宅配便の荷物が中心だ。ローカル線の多くは都市部の鉄道に比べ利用者が少ないため貨物の搭載スペースを容易に捻出でき、経営が厳しいローカル線では貨物の運賃収入による経営改善効果もある程度期待できるという利点がある。

北越急行ほくほく線の旅客列車で行われている貨客混載輸送。専用ボックスに収納した宅配便荷物を旅客と一緒に運んでいる。【撮影:草町義和】

新幹線や在来線特急による貨客混載の場合、比較的長い距離を短時間で運べることから、時間の経過で鮮度の落ちる農産物や鮮魚の輸送に向いているといえる。また、新型コロナウイルスの影響で、長距離の都市間を結ぶ新幹線や在来線特急の利用者がとくに減少していることから、鉄道各社は収入の減少分を補うための一策として、貨客混載の検討に本腰を入れ始めたという面もありそうだ。

貨客混載は旅客列車内の余剰スペースを活用することが基本のため、1列車で輸送できる量は少ない。列車の本数が多い路線なら、分散輸送により規模を拡大することも可能とみられる。ただしJR旅客各社の場合、あまり規模が大きくなるとJR貨物と競合する可能性もあり、今後どこまで拡大するかは未知数だ。