和歌山市などは和歌山電鉄が運営する貴志川線の2026年度以降の「あり方」について、検討を進めている。現在の行政支援スキームが本年度2025年度末で終了するため。和歌山市が9月に明らかにした検討結果では、現在の「みなし上下分離」から「完全上下分離」に移行する案を採用すれば黒字経営が見込めるとしている。

検討結果によると、貴志川線の年間利用者数は2006年度が212万3000人。2015年度の232万人をピークに近年は減少傾向で、2020年度はコロナ禍の影響で142万2000人まで落ち込んだ。その後は増加して2023年度は159万1000人になったが、コロナ禍前の水準には戻りきっていない。
運賃収入も2016年度の3億6800万円をピークに減少し、2020年度は2億2700万円に。2023年度は2億7200万円だった。沿線自治体の支援対象となる赤字額は、コロナ禍前の2006~2019年度が年間5300万~1億5500万円で推移。コロナ禍の2020年度以降は年間1億7600万~2億9800万円の赤字に拡大した。


検討結果では、今後も鉄道を維持する場合の2035年度までの見通しも示した。運賃改定(2026年度)や沿線にある和歌山信愛女子短期大学の学生募集停止(2026年4月~)、ICカード導入(2027年度)、新型車両の導入(2034・2035年度)を想定。年間利用者数はコロナ禍前の水準に戻らないまま減少し、2035年度は139万4000人の見込みとした。
年間運賃収入は運賃改定により2026年度が3億3800万円に増加するが、その後は徐々に減少して2035年度は3億1000万円に。一方で設備投資費は2026~2035年度の10年間で約54億2000万円かかり、修繕費も10年間で約18億1000万円かかるとした。

今後の貴志川線のあり方については、現在の「みなし上下分離」に加えて「完全上下分離」により鉄道を存続するケース、鉄道を廃止して「路線バス」か「バス高速輸送システム(BRT)」に転換するケース、「軌道事業」に転換して低床式の軽量軌道車両(LRV)を運行するケースの合計5ケースについて、10年間の見通しを示した。
10年間の収支は、国や自治体の支援がまったくない場合でいずれも赤字。赤字額が最も小さいのは「路線バス」の48億~54億8000万円で、これに「完全上下分離」の73億3000万円、「みなし上下分離」の75億1000万円、「軌道事業」の113億5000万円が続く。BRTの赤字額は最大の108億5000万~117億6000万円を見込んだ。
一方、国や自治体の支援があるという条件で事業者の収支を見た場合、完全上下分離は4億7000万円の黒字。みなし上下分離と軌道事業は2億8000万円の赤字で、路線バスとBRTは10億~20億円台の赤字になるとした。

貴志川線は和歌山~貴志の14.3kmを結ぶ鉄道路線。かつては南海電鉄が運営していたが、利用者の減少に伴い同社は2003年に廃止する考えを表明。和歌山市などはみなし上下分離の導入による鉄道存続を決め、両備グループの岡山電軌が設立した和歌山電鉄が運行を引き継いだ。
みなし上下分離は、施設を従来通り鉄道事業者が所有するが、沿線自治体などの公的機関が施設の維持費を負担することで実質的に上下分離とするもの。これに対して完全上下分離は沿線自治体などが施設を保有し、事業者に無償で貸し付ける。検討結果では施設を保有する第三セクターなどを沿線自治体が設立し、事業者に貸し付ける方式を想定。設立に伴う費用や人材の確保が課題になる。
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