鉄道・運輸機構が軌間可変車両(フリーゲージトレイン=FGT)の走行試験設備の撤去を決めたことについて、九州新幹線・西九州ルートへのFGT導入などを提案している佐賀県の山口祥義知事は1月20日、遺憾の意を示した。
山口知事は同日開かれた記者会見で、試験設備の撤去について佐賀県には事前の連絡がなかったことを明らかにした。そのうえで「(西九州ルートの)『幅広い協議』をするなかで、FGTは選択肢から落ちていない」と強調。「一方の当事者である国が我々にまったく連絡しないで、そういう判断をするというのは遺憾」などとして不快感を示した。
鉄道・運輸機構は2021年度決算で、整備新幹線建設推進高度化等事業のうち軌間可変技術調査費の497億7458万3133円を減損処理している。同年度の法人単位財務諸表などによると、国土交通大臣が整備新幹線へのFGT導入が困難と表明したのを受け、九州新幹線・鹿児島ルートの新八代駅(熊本県八代市)に設置されているFGT用の軌間変換装置などを撤去することにしたという。
一方、西九州ルートの新鳥栖~武雄温泉が未着工のため新幹線と在来線の乗り換えが必要になっていることについて、山口知事は「我々はいまの状況(乗り換え)を成功させたいと心から思っている。そこからとくに打開されないということで、現状を佐賀県として生かしていくということになるのではないかと思う」と話し、現状維持のままでも構わないとの考えをにじませた。
西九州ルートは鹿児島ルートの新鳥栖駅で分岐して佐賀県内を横断し、長崎駅に至る整備新幹線。昨年2022年9月、終点寄りの武雄温泉~長崎が「西九州新幹線」としてフル規格で開業した。一方で起点寄りの新鳥栖~武雄温泉は未着工。このため博多~長崎は直通できず、武雄温泉駅で在来線特急と新幹線を乗り換える必要がある。
武雄温泉~長崎の工事実施計画が認可(2012年)された時点では、軌間が異なる在来線と新幹線のどちらも走れるFGTを導入し、博多~長崎を結ぶ直通列車を運転することが考えられていた。しかしFGTの開発が難航。特殊な機構のため維持コストや採算性の面でも課題があり、国やJR九州はFGTの導入を断念した。このため新鳥栖~武雄温泉にフル規格新幹線を整備することが考えられるようになった。
しかし佐賀県はFGTを導入するという当初の約束と違うとして反発。地理的に福岡に近いことから新幹線の整備による時間短縮効果が小さく、その割に巨額の建設費を一部負担しなければならないということも背景にあり、同県はフル規格での整備に同意していない。
国と佐賀県は2020年6月から、FGT導入のほかフル規格新幹線で整備する場合は佐賀空港を経由するルートで整備することなども含め議論する「幅広い協議」を断続的に実施しているが、議論は平行線をたどっている。
《関連記事》
・中国のフリーゲージトレインが完成 軌間異なる隣接国に直通、台車交換不要で時間短縮
・西九州新幹線「N700S」5編成に 1編成を増備、列車の増発は?